最適解は失敗の学習結果

「最適解」というとどこかにすでに存在していて、それを見つければいいというイメージがないだろうか。理論解がある場合にはそれで正しいが、ほとんどの世の中の問題に理論解はないので、たいがいは、探索していく方法が必要になる。


これを人がやると試行錯誤やモグラ叩きとも言われる泥臭い探索方法になり、甚だ効率がわるい。その探索をソフトウエア・アルゴリズムで自動的に行うのが、最適化アルゴリズムである。世の中には数多くのアルゴリズム(手法)があるが、他の解と比べて今回の解はよいのか悪いのかという比較をして、その時点の一番いい解を最適解としている基本原理は同じである。


平たく言えば、悪い解(失敗)とより良い解(成功)の比較と選択の繰返しを数値的に行っているわけなので、失敗の学習をした結果として最適解を探索したのだという見方ができる。言うまでもないが、人間世界であっても、経験のない設計者がいきなり優れた製品を設計することはできない(理論解はない)ように、優秀な設計者とは失敗の経験から学んでよい設計のコツを知っている人なわけである。


「失敗を学ぶことから、成功集合を抽出するのが、最適化である」を、さらに言い換えると、最終的に選択する最適解(成功)が1つであったとしても、その裏(過去)には数百回あるいは数千回の最適ではない解(失敗)があって初めて、最適解(成功)を選択できる、ということ。失敗を学ぶ方法を確立すれば、成功に導く方法が分かるという当たり前の方法論は、最適解探索の原理でもあるわけなのだ。


また、条件が変わると、さっきの最適解ではなく別の解が最適解となる、言い換えると、失敗だと思われていた解が新たな最適解になりうる。すなわち、失敗データベースというのは、過去の無価値遺産ではなく、“成功例を導くための膨大な知的資産”であるということができる。


最適解を探索するのに、数千回も計算して、最後に一つしか選ばないのは膨大な無駄ではないかという疑問に対しては、数千回の探索結果の代表としての価値に着目すべきである。繰り返すが、探索の条件を変えれば、残りの数千個のどれが新たな最適解になるかわからないのだから。設計空間にも、ヒーローはいない、ヒーローだけで仕事はできない、皆の協力が必要ということ。


この見方を敷衍すると、単純な探索のためだけではなく、ある種の分析を施すことによって、Best Practice Rule(熟練者のノウハウ)を定量的に抽出することが可能になると期待できるのである。「失敗に学ぶ」というと、二度と失敗をしないための対策を立てるためという後ろ向きのニュアンスが強いが、言い換えて「成功ノウハウがわかる=ベスト・ソリューションを導く」という前向きな意味で使われていいのである。

この意味で、昨今Simulation Data Managementという技術分野に注目が集まりつつあるが、まだまだその戦略的な威力が十分に理解されているとはいえないし、関連要素技術もこれからの発展を待たなければならない。このテーマについては、仕事としてもライフワーク的にも興味を持っているので、さらに掘り下げて書く機会を持とう。


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                             今日の1枚
気持ちのいい青。海岸で、コントラストを引き出せる被写体を探していたら、思わず目の前に。

唯一の所有ライカ。40mmという焦点が気に入っている。コンパクトカメラとしての大きさもちょうどよい。
@大磯 - Leica CM -
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