表現コンプレックスと写真

表現コンプレックスなどと書いたけれど、要は、小学校以来自分はアートには無縁の人間だという思い込みがずいぶん長かったことを、初めに書きたいのだ。


歌は下手でカラオケは好きじゃない。中高で吹奏楽部だったけど、メロディを弾く楽器は無理だと知っていたから、パーカッションになって実は助かったという思い出。絵を見るのはかなり好きになったけれども、描く側には絶対なれないことは確信を持っている。小六の学内絵画展での、赤賞(いわゆる佳作)が最高賞だ。学生の頃、文学読本や、文学の本質などというものを読んで、文学者という人たちが何を考え感じているか知ろうとしたことがあったが、そういうことをした時点で文学者になるのは無理と悟った。


というわけで、まあ、(たいがいの人達と同じくといっては失礼か)自分には表現する手段がないことに、劣等感とまではいわないまでも、あっちの側の人間とは違う、こっち側の人間という、捻くれたコンプレックス様な気持ちが、無意識にずーっとあったのだった。本当は表現したいことがあることが一番大切なのだが、そこは避けて通って、例えば、楽器を演奏する技術、筆や色を操る技術、文章や音符を想起する能力が、自分にはないのだという技術や表現手段に置き換えることで、無理な理由を勝手に納得させていたような気がする。


しかし、コンプレックスというのは、願望の裏返しでもある。”いつかピアノが弾けたなら”という歌で、中年男子が本音を引き出されたように、できたらいいなあ、俺だって親が子供のころにピアノを習わせていたら、今頃は、....という悔し紛れの願望を実は誰でも持っているのだ。たいていは、子供の頃の失敗経験やからかい、自分が稽古事が嫌いだったせいで、コンプレックスとして閉じ込められているだけ。

私の場合、幸運にも妻が絵を書き、興味や話題もアート系が多い。ある時、表現コンプレックスの話を妻にしたところ、カメラはどうかと云う。その後、機を見ては写真を撮ってはどうかという。写真といっても自分が撮るのは、記念写真しかなかったし、写真家が撮る写真もたまにいいなあというときもあることはあるけれど、たいがいはきれいなだけとか、意味不明のゲージュツ写真が目について、やっぱり自分の世界でないと、線を引いていた。それにもめげず、妻は、写真が向いていると思うと、預言者のように私になんども云うのだ。


そうしたら、特別なきっかけがあったわけではないけれども、洗脳されたかのようにある時期から写真撮ってみようかと思い始め、妻が持っていた一眼レフカメラを持って家の周りを歩き始めたのだ。始めたときの自分を納得させるための”理論的裏付け”はよく覚えている。要は、写真であれば、カメラという道具があれば始められるし、カメラの使い方や写真の撮り方は本で習えばよい。あとはいい写真が取れるかどうかは、自分の感性を磨き、道具を使いこなせればよい、という割り切りだった。


もともとゲージュツ的感性は自分にはないと決めつけていたし、いつものように、斜に構えていたから、写真展に出そうとか気張る必要もなく、自己満足でいいやと軽い気持ちで始めたつもりだった。ところが、これがみごとにはまってしまった。そこまで読んでいた妻の謀略がもしれないと思いつつも、毎週のようにカメラ本を買っては読み、写真雑誌を買っては、上手な写真を見て思いをはせ、買うカメラを研究し、レンズの種類を学び、ということを集中的に6カ月ぐらいやっただろうか。

それまでは、趣味らしい趣味は持たなかったから、趣味の勉強ほど面白いものはないことにも気付かされた。被写界深度も、構図も、絞りの意味もわからなかったのが、選びに選んで、ミノルタα7を買ったのであった。α7はフィルムカメラにもかかわらず、バックの液晶表示が大きく、情報詳細かつ丁寧でとても使いやすいカメラだった。デジタルが本格的になる数年前の頃でした。Nikon D100が登場して、私の第一号カメラα7を泣く泣く売ったのだった。デジタル一眼が出る直前だったからというのは後付けの理由であって、フィルムカメラとしての完成度は、文句無しだったように思う。


このテーマを書こうとしていたら、ブログ界では有名なChikirinの日記、2010- 03-05に、 “自分の表現法”と出会う、というタイトルの記事を見つけた。私も、カメラのおかげで、自分にも少しは表現できる道具ができて、表現したいこともありそうだということが分かってきたから、Chikirinの日記に納得。


http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20100305

いつも、いいこと書いてます。気に入っているブログの一つ。

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                             今日の1枚
2010/3/31
今は、ほとんどデジタルでしか撮らないが、無性にフィルムカメラで撮りたくなる時がある。一番好きなのが、コンタックスG2。チタンがいい、大きさもいい、レンズが何と言ってもサイコー、しかも安い。G2そのものが絵になるので、被写体にしてみた。        @自宅近く - Nikon D100 -
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                             今日の1曲 
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エルガー:威風堂々(イギリス管弦楽曲集)

エルガー:威風堂々(イギリス管弦楽曲集)
(2003/10/29)
オムニバス(クラシック)

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[変奏曲「エニグマ(謎)」 Op.36 - 第9変奏ニムロッド]
1年前、エルガーの威風堂々が欲しくて買ったCDにこの曲が入っていた。はじめて聴いて、雑念だらけの心でさえも、さらさらと洗われるかのような静かに浸み通る感動を与えてくれた。エニグマは、第二次大戦のドイツの有名な暗号機の名前だし、イギリスのスパイの暗号名にニムロッドというのがあったのは、この曲からなのだろうか。いかにもイギリスらしい。その後何度聴いても感動は変わらない。私が買ったのは、iTunesからで別のアルバムだが、このジャケットのデザインをものすごく気に入ってしまったので、買おうかと考えている。