目線がフレームに、脳がカメラになってしまうとき

この前、ビリヤードをテーマにした記事を書いた。3年間、週の3日-5日は、ビリヤード(四ツ玉)漬けだったから、起きている時間でいえば、仕事の時間の次に圧倒的に多くの時間を費やしていた。なので、何を見てもビリヤード玉の配置に見えていた白昼夢の中に住んでいたような時期があった。


食事をすると、箸がキューになり、テーブル上のコップや皿の丸い形とその配置が、ビリヤード玉に見える。箸で自分のコップをこの角度で打てば、向こう側の茶碗の右側に当たって、右となりにある皿に当てられる、とか。人の集団を上から見ると、黒い頭の集合が玉に見えてきて、真ん中に玉を放り込むとどういう風に散るだろうか、とか。脳がビリヤードに占められて妄想するようになるわけだ。


ノーベル賞を取るレベルの研究者は自分の研究テーマの妄想で頭がいっぱいになるというから、感覚としては近いのかと思うと、勉強もこれぐらいやってればなあ、とかありえないことを考えてしまったり。



ところで、写真を初めて熱中しだしたら、頭の集中と妄想によるこの視覚の変容がやっぱり出てきたのだった。カメラを持っていないときでも、家にいるとき、歩いているとき、電車に乗っているとき、いついかなる時でも被写体を見つけ、(仮想的に)カメラを構え、横長もしくは縦長のフレーム内に収めながら、構図を見つけ、ズームすべきか、近寄るべきか、どこに焦点を当てるべきか、ボケはどれぐらいにしようか、と瞬時に考える。レンズと化した目と頭が同期して、自分が頭脳を持ったカメラになってしまったような感覚。


本当に、ある時期は、何をしていても視線がフレームになってしまって、人の話に集中できなかったり、背景の構図(と、想定してる会話している人の後ろの窓とか)が気に入らないので、椅子の位置をずらしたり、見え方を確認するのに歩く方向を突然変えてみたり、物に近付いてじーっと見つめたり、かなり不思議というより、不審な行動を取っていた時期があった。



興味のあるものに集中していると、まったく他人の目が気にならなくなるというのは、自分の世界に没入できて、アウトロー的な心地よさもあった。本物のアーティストは、こういう感覚が強烈で日常なんだろうかと、少し垣間見た気もした。


とはいえ、しょせん素人写真好きレベルなので、フレーム目線の時期は長く続かず、それでも半年か1年ぐらいだったか。ただ、素人か玄人かという線引きはさておき、頭を何かに徹底して集中させるといういう時期を作ると、それなりに脳の中に永久に残ることは確かなようだ。


写真と撮りに行くときは、あそこに行ってこういうものを撮りたいというイメージをして行くのだが、私の写真は特定の被写体命ではなく、どちらかというと成り行きに任せる方。スナップ的かもしれない。事前に決めていった被写体を撮っているときは、想定内だから撮っていて興奮しない。ああ、やっぱりありましたね、想定通りこの構図で行くしかないかという成り行き的な撮り方。これは面白くない。



ところが、途中で予期せぬ被写体なり、光の状態なりに出会うと、これが断然いい。アドレナリンが一気に噴き出して、一つの場所に気がつくと30分ぐらい居たりする。こういう状態の方が、いい写真になるし、シャッターを押したときの印象も強く、疲れも気持ちがよい。


自宅にいるときでも、家族が寝てしまって、軽くアルコールが入っている時など、急に感性が尖がる時があって、ふだんどうでもいい物体や配置が魅力的な被写体に変わる。そういう時は、必ず、デジカメ一眼に単焦点のレンズで、シャッターを押す。別の記事で書こうと思うが、単焦点レンズというのがこの場合大事。

ともあれ、人間の脳活動は不思議。




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