データの滞留をゼロにする、設計工程におけるJust In Time

Just In Time (JIT)は、「必要な時に間に合うように部品をタイムリーに供給することで、製造過程での部品在庫を可能な限り少なくする」という手法を示す、トヨタ生産システム(TPS)の要の方法論だ。


では、この考え方を設計工程に適用できないだろうか。「設計工程における情報受け渡しの自動化」と言ってしまえばそれだけのことなのだけれど、ここでは、JITにおける”部品”を”設計データ”と置き換えて考えてみよう。そうすると、前述の文章は、以下のようになる。


必要な時に間に合うように”設計データ”をタイムリーに供給することで、”設計”過程での”設計データ”在庫を可能な限り少なくする


どうだろう、とても深い意味を持つように感じられないだろうか。

普通、データとは、蓄積するもの・保存するものという暗黙的な感覚を持っているにちがいない。確かに使われなくなって、過去のものとなったデータはほとんど保存されるだけの役割しか持たない。ところが、設計工程のまっただ中におけるデータは、設計情報そのものであって、行程の中で、読み込まれ・加工され・修正され・書かれ・解釈され・判断されている、流通物そのものである。言い換えれば、留まっていてはいけないものである。


したがって、生産JITにおいて部品在庫が悪であることと同様に、設計JITにおいては、データが流通せず留まっている状態は悪である、と言ってもいいだろう。「データの滞留」と言い換えてみるさらにわかりやすい。翻って、実際の設計工程を見てみると、大半のデータは、個人のPC、データサーバ、スーパーコンピュータのディスク、依頼先の会社のシステム、海外の部門などのどこかに、留まっている場合がほとんであることに、気づく。データは、次の工程に使われるために生成されているはずなのに、受け渡しが自動化されていないというだけで、無駄に滞留させられているわけである。


設計工程中のデータは、原則留まっていてはいけないのだ。設計データの生成にはものすごい努力が払われているのに、生成されたデータの受け渡し部分にはほとんど注意が払われていない、という大きな落とし穴が見落とされている。リレーのバトンが、地面に落ちているのに、誰も必死になって探していない、という不思議な光景にも見える。


要はデータ授受の自動化を行うだけで、データの滞留を一掃させることができる、ということなのだ。設計工程でのJITの実現である。「データの滞留」という状態を意識することが大きな価値転換になり、これを解消する方法を持てば、設計工程の劇的な改善につながるということが、もっと着目されてもいいのではないだろうか。


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