スーパーの品切れと渋滞の共通点=みんなが小悪魔

震災の影響で、物不足が目立つようになってきた。被災地向けにガソリンや、インスタント食料、飲み物などが優先的に供給され品切れになるのは、当然としても、私が住んでいる神奈川県のスーパーでも、いろんな食料が軒並み品切れか午前中で売り切れてしまっている。覚えているものでも、乾麺類ほぼすべて、納豆、卵、うどん、焼きそばなど、計画停電の影響で簡単に調理できる食品が対象になっているようだ。他にはお決まりのようにトイレットペーパーやティッシュペーパーなど。


しかし、買い物客のカゴの内容をさーっと見た感じでは、大量買い置きをしているような人は見かけず、皆普段の買い物の量と種類のように見える。ただ、私もそうだけれど、早く買わないと品切れになりそうな、卵と納豆はどの人のカゴにも入っていた。


これを見て思った。品切れの原因は、ちまたで言われているような、無節操な大量買いが原因ではなく、皆が同じ品を普段より一つ多く買ったり、来週買えばいいものを、念のため今週買ってしまったり、普段買わないのに品切れになりそうなので不安になって買ったり、ということを、おのおのがどれか一つやることで、総量として大きな需要が生じ、あっという間に需給バランスが崩れてしまうのだと。


スーパーの側は通常通り供給していても、いつもだと、3人に一人しか買わない品を、一個でも全員が買うと、あっという間に3倍の需要になって、供給が追い付かず品切れになるのだ。一人一人は、とりあえず買っておこうかという感覚で一個買うだけだから、罪悪感なんてないし、それが全体の品切れにつながっているなんてことは思いもしない。それどころか、誰かたくさん買っている奴がいるんじゃないか?と周りを見回すぐらいだろう。私がまさにそうだった。


しかし、これほど、ちょっとしたきっかけで需給バランスは崩れるということを考えると、普段夕方までにきれいに売り切れ寸前になるような供給というのは、日々のとても微妙な数値情報と判断でなされているんだということが、よくわかった。


そう考えると品切れは、とても興味深い社会現象だ。人々をもう一個買っておこうという心理にさせる原因は、今回のような災害やテレビ番組の特集などでよくお目にかかるわけで、そのようなとき必ず、買い占める”悪者消費者”がいるに違いないということをわれわれは考える。だが、実際は、一人一人に巣くっている小さな小悪魔のしわざに過ぎないのだ。これこそ、集団心理の魔物だといえる。


買占め消費者は存在すると思うし、それは目立つ。他の消費者の買い心理を煽る効果は確かにあるだろう。けれども、全体消費から比べれば、彼らが買う総量は少ないと思う。買占め消費者の役割はむしろ、社会学の別な学問体系になりつつある複雑系理論でいうところの”臨界状態の中の種/刺激”に相当するだろう。これはこれで面白いネタなので、あとでまた話題にしよう。
(⇒こちらもご覧ください。「品切れが起こるからくりとは?−過冷却と比べた相転移的考察」


さて、社会現象的に、もっと興味深いもう一つの視点は、自動車の渋滞現象と同じ理屈で説明できるんではないかという可能性。東京大学の西成活裕先生が渋滞学を提唱されていて、これがすこぶる面白い。車はもちろん、レジ待ち、電車、バス、アリの行列まで世の中のいろんな渋滞を、渋滞学の事例として説明・理論づけている。うまく例えられているかわからないが、車の密度=購買者密度、速度=供給率=(供給速度/需要速度)のような置き換えをやってあげると、渋滞学の理論がそのまま使えるように見える。購買者密度が少し増えただけで、車の速度が落ちるようなイメージで、供給率が落ちて、最後は渋滞ストップ=供給率ゼロに。わたしは専門家ではないので、これ以上断言はできないけれども、物理屋のかけらを持ってるので、かなり当たっているんじゃないかと。


ポイントは、どの程度購買者密度が増えると、供給率が下がっていくかだが、これは商品によって違うだろう。そういう裏付けデータがあれば、消費者に買い心理を抑えるように説得できるできるのではないだろうか。買占め消費者がいるんじゃなくて、実はわれわれの中に潜んでいる小さな悪魔が手をつないで惹き起こす問題なんだよと。


品切れ現象=渋滞現象が成り立つとすれば、これは、一つの社会現象を解決しうる方策のような気がしてきた。西成先生に提案してみようかな。


クルマの渋滞 アリの行列 -渋滞学が教える「混雑」の真相- (知りたい!サイエンス)

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