ジャズ喫茶って、やっぱりいいなあ

先日地方都市に一泊した時ホテルの近所を散歩していたら、如何にも!といった風情の階段の先のきたない壁の向こうからジャズが聞こえて来る。知らなければ絶対に足を踏み入れないだろう感じのみすぼらしい入り口(写真)。ところが、こういう構えの店こそ、"本物の"地元に根付いたジャズ喫茶だということを、昔鍛えた本能が教えてくれる。
 
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食事の後いそいそと入ってみた。大正解だった。本物だった!薄暗い店内に、レコードが大量に棚に並び、玄人志向のでかいスピーカーから流れてくる大音量のジャズ。渋い無口のおじさんマスターが一人で切り盛り。カウンターには常連さんが一人と奥に仲間連れの一組。絵に描いたような、本物ジャズ喫茶の姿ではないですか?うれしさを超えて、いきなり桃源郷にはいったような気分になったのは、まったく大げさでもない。
 
 
私はスピーカー真ん前の居心地良さそうな広いスペースに一人で座る。マスターが、メニューを持ってくる。深夜まで営業してるので、さすがにコーヒーだけではない。普通のバーにあるようなアルコールメニューが充実。ここはもう、アイラのスモーキーなシングルモルトArdbegをストレートで注文し、渋さには思いっきり渋さで対抗だ。専用グラスがまたよい。底に横文字が書かれていて、上から拡大されてくっきりと見えるデザイン(写真)。スモーキーモルトに合うスモークチーズが二切れさり気なく置かれる。向こうも思いっきり渋さに磨きをかけてくる。
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明かりはもちろん間接照明、特に各テーブルに固定されたマスター手作りの小さな照明が粋だ。暗い店内を保ったままテーブル上のものが見えるようにしたいという実に配慮の行き届いたマスターの店づくりへの執念を感じる。単なる上っついたこだわりではない(写真)。誰も読まないだろうけど、古い雑誌やジャズ本が置いてあるのは、店のインテリアとしては重要。タバコの煙で茶色になっているのが、歴史を物語る。
 
で、もちろんスピーカーは、ドーンと本物の音を出す素晴らしいもの。私はオーディオは全くの素人なのでメーカーや機器については無知だけれど、いい音を聴けばもちろんわかる。この店で、スピーカーの目の前で、サックス、ピアノ、ベースにドラムが鳴り出したら、音を聴くことに夢中になってしまうのは当たり前だ。もう何時間でも座っていてもいい気分になる。学生の頃はこうやって、優に半日は珈琲一杯で座り続けていたものだ。もちろん額にしわを寄せて腕を組みながら。
 
いい音だと、曲や奏者が誰かは二の次になってしまい、ほんとに聞き惚れてしまう。音の中に体ごと浸れるというのがぴったりかもしれない。音の空間を演出してくれる、ジャズ喫茶の醍醐味だ。してみると、このジャズ喫茶というのは、もしかすると日本ならではの独自の文化ではないだろうか?アメリカは本場だし、ヨーロッパなんかでも、カフェは会話のためにあるから、部屋を暗くして音楽だけ聞くなんていう文化はなさそうだ。クラシック喫茶と同様、本物なかなか聴けないんで、レコードやCDで究極の音楽空間を追い求めたい、日本人の職人的文化様式の一つではないかと思う。
 
ともあれ、20年ぶりぐらいに、ジャズ喫茶を堪能できた幸せなひと時でした。
 

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